【イベントレポート】ステディカム ブロードキャストマスタークラス 2025

銀一株式会社は、日本大学芸術学部放送学科において、「ステディカム ブロードキャストマスタークラス(※)」を開催しました。
2025年3月13日(木)、14日(金)の2日間で行われたこのコースは、放送分野におけるステディカムの運用に特化したもので、Tiffen社公認「ステディカムワークショップ」よりも、上級のコースとしてカリキュラムが設定されました。
”ゴールド”、”シルバー”、”ブロンズ”の3コースからなるステディカムワークショップは、体系的にステディカムの構造、セッティング、オペレーションや付随するテクニック、知識を理解できるコースとして、未経験の方から参加可能な広く開かれたコースです。
一方、今回開催されたマスタークラスは、ステディカムワークショップを修了または同程度の現場経験がある方を対象に、より高度な、専門的知識を習得することに特化したコースとしてデザインされました。オペレーションスキルの向上はもちろん、現場での実運用上の課題解決、ステディカムオペレーターとしての撮影分野の拡大などを目的としたコースです。
※マスタークラスは、銀一株式会社が独自に企画・運営するプログラムで、ティッフェンインターナショナル社(米国)とは関係がございません。
本コースの講師には、NHKテクノロジーズの関本浩則氏、千代田ビデオの吉田直也氏のお二人をお招きしました。

関本氏はNHKの番組制作におけるステディカム運用の黎明期から現場を牽引してきた方であり、現在は後進育成もしながら、ご自身もARRI Trinity2の導入・運用など、新しい技術による映像表現にも積極的に取り組んでいます。

吉田氏は、現役で紅白歌合戦をはじめとする音楽番組等でのステディカム運用を行っているカメラマンで、電動ジンバルの活用も進め、カメラを動かす、ということに深い理解があります。
放送分野、とくに音楽番組やスポーツ中継はマルチカムによる制作が基本で、映画やドラマ、ミュージックビデオやコマーシャルなどの制作とはその進行も、カメラやアクセサリー、クルー構成まで大きく違います。
マスタークラスでは、それら作法の異なる制作を、実際の現場さながらのオンセットで行っていきます。
今回のコース内容は関本氏と打ち合わせをしながらイチから作ったものですが、実際の現場を意識することを特に求めました。そのためにペデスタルカメラのカメラマン、スイッチャー、フロアディレクター、照明技師、ビデオエンジニアなど、実際の現場で活躍している方々をスタッフとしてお願いをしました。そして演者さんも実際に普段から歌っていらっしゃるグループをお呼びして”本番”を作りました。
”本番”に立てるよう、まずは基本的な知識を学んでいきます。
バランス

放送システムの中のカメラの1台としてステディカムが入る場合、映像ソースはもちろんのこと、カメラコントロールやインカムによるコミュニケーション、タリー信号など、さまざまな信号がカメラに入出力され、それらを光ケーブルまたはワイヤレスユニットによって接続します。
ワイヤレスの場合にはどのようにユニットを搭載するか、有線の場合にはそのワイヤリングが肝になります。
これらによってバランスの取り方が他の現場と変わり、また、オペレーションの好みでワイヤリングはさまざまです。
ケーブリング

ケーブルがスレッドから出たあと、その先をどのように配線するか、ここもオペレーションに影響を与えます。
また、カメラアシスタントのケーブルさばきにも関係してきます。
ズームフォーカスデマンド

ブロードキャストでは、ズーム・フォーカスをステディカムオペレーター自身が行うことがほとんどです。
デマンドのセットアップも同時に行っていきます。
インカム

ワイヤレスインカムが主流になってきている現在、送受信機をどこにどう固定するかも、検討する必要があります。
ヴェストを着用する都合上、ハンディカメラなどのように、送受信機を腰にぶら下げておくことはできません。
また、ヘッドセットのケーブルが引っかからないように、などの配慮も必要になってきます。
コミュニケーション

ケーブルを捌いてくれるカメラアシスタントとのコミュニケーションも重要です。
ケーブルが出ない限りカメラを動かせず、しっかり回収できないと事故を起こす元にもなります。
これらのブロードキャストのセットアップの基礎を理解して、実際に練習していきます。
今回のコースは、Tiffen社公認ステディカムブロンズワークショップ修了または同等以上の経験があることを参加条件としており、現場経験がある方もいらっしゃいました。それでも、多くのケーブルやズームフォーカスデマンドなどが普段のオペレーションと違い、思った通りのワークをすぐできるというわけではありません。
体全体から手先まで、動きをしっかりと体に慣らしていきます。


そして本番のための準備を進めます。
今回は音楽番組制作を題材に、実際にアカペラグループが歌う1曲を題材として講師からカット割りが配布され、各自のショットを確認・検討しながら進めていきます。この点もドラマ制作などの割られたカット台本と異なり、秒数・タイミング、他のカメラからの見切れなども含め、ショットデザインを検討します。


構成としては、ペデスタルカメラ3台、ステディカム2台の5カメによるマルチカム収録です。

カメラリハーサルからは、フロアディレクター、スイッチャーにも入ってもらい、随時カット割りの修正が行われます。ここでもコミュニケーションが重要になります。


マルチカメラ制作での「サイズの受け渡し」「リターン映像の確認」という考えの中でオペレートするため、参加者も普段のオペレート以上に考えること、やることが増えていきます。
リハーサル・本番と、各自に与えられた回数は2回。その途中にもカット割り微修正も進みます。スタッフ全員がひとつの作品として、少しでも良くなるようにというその表情は真剣で、緊張感も高まります。




合間合間では、講師のこれまでの経験からのショットデザインやセットアップ、セーフティについてなど、多くの知見を惜しみなく共有しました。


また、今回は日本大学芸術学部放送学科の学生・助手の皆さまにもお手伝いをいただき、カメラアシスタント、照明、VE、PA、音声と、多くの分野でご協力いただきました。
慣れてきたところで、学生の皆さんにもカメラを経験したり、空き時間でステディカムを体験いただいたり、と、普段プロとして活躍しているスタッフから直接さまざまな経験やテクニックを共有できたことも、非常に価値が高かったと感じています。






そして、この講習のために一日中同じ曲を歌い続けていただいたSOSの皆様にも感謝!!

2日間を通して、自分がオペレーションしている環境や機材の違いから最初はうまくいかないというところから、慣れてきた、理解できた、という意見が多く聞かれました。
普段からステディカムを運用しているからこそ、ここはもっとこういう画がいいな、ここの体の運び方はどうすれば、などを皆がひとつひとつ解決してく様子が見え、”本番”をつくったからこその参加者の”本気”が伝わってきました。

最後に、本コース開催にあたりご協力いただいた講師の方々、お手伝いいただいた皆さま、日本大学芸術学部放送学科の関係者の方々、そして参加いただいたオペレーターの皆さまに感謝申し上げます。
銀一株式会社は、今後もステディカムをより多くの現場で活用いただけるよう、さまざまな取り組みを進めていきます。